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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)28号 判決 1998年3月31日

東京都千代山区丸の内2丁目2番3号

原告

三菱電機株式会社

代表者代表取締役

北岡隆

訴訟代理人弁理士

竹中岑生

大槻聡

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

吉見信明

木南仁

吉村宅衛

廣田米男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

(1)  特許庁が平成7年審判第7471号事件について平成8年12月16日にした審決を取り消す。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「インバータ回路」とする発明(以下、「本願発明」という。)につき、昭和62年1月14日特許出願(昭和62年特許願第6429号)をしたところ、平成7年2月9日拒絶査定を受けたので、同年4月13日審判の請求をし、平成7年審判第7471号事件として審理された結果、平成8年12月16日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は、平成9年1月27日、原告に送達された。

2  本願発明の要旨(特許請求の範囲第1項の記載)

制御電極に入力信号が印加されることで、出力信号を高電位に決定する第1のトランジスタと、制御電極に前記入力信号が印加されることで、出力信号を低電位に決定する第2のトランジスタとを有するインバータ回路であって、

前記第1及び第2のトランジスタのうち一方のトランジスタのみに対し並列に接続され、その制御電極に前記入力信号が印加される、前記一方のトランジスタと同極性の第3のトランジスタと、

前記一方のトランジスタ及び前記第3のトランジスタ各々の一方の電極間に両電極が接続され、その制御電極に制御信号が印加される第4のトランジスタとを備え、

前記制御信号により前記第4のトランジスタのオン・オフを選択することで、入力閾値電圧が変化することを特徴とするインバータ回路(別紙図面1参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨は前項記載のとおりである。

(2)  引用例

昭和60年特許出願公開第30216号公報(以下「引用例」という。別紙図面2参照)には、その[発明の概要]の項に、「・・・目的は簡単な回路構成によって半導体論理回路のしきい値電圧を切換可能とし可変にすることができる半導体装置を提供することにある。このような目的を達成するため、本発明は相補型MOS論理回路において、その入力と同一の信号を制御入力とした電界効果トランジスタを、上記MOS論理回路の出力端と君源間に電気的に接続・切離し可能な状態で付加するようにしたものである。」(2頁右上欄2行ないし10行)と記載され、特許請求の範囲には「共通接続したゲートに入力信号が供給され共通接続したドレインから出力を取り出すPチャンネル形電界効果トランジスタおよびNチャンネル形電界効果トランジスタからなる相補型MOS論理回路において、このMOS論理回路の入力と同一の信号を制御人力としたNチャンネル形電界効果トランジスタおよびPチャンネル形電界効果トランジスタの少くとも一方を、前記MOS論理回路の出力端と電源間に電気的に接続・切離し得る状態で付加した・・・半導体装置」と記載されている。

また、[発明の実施例]の項には、第2図を用い「この第2図において第1図と同一符号のものは相当部分を示し、(7)はCMOSインバータを構成するP・MOS(1)、N・MOS(2)の入力と同一の信号を制御入力とするN・MOS、(8)はこのN・MOS(7)を論理回路と接続・切離を行う開閉回路である。そして、N・MOS(7)のドレインは開閉回路(8)を介してCMOSインバータの出力端(6)に接続され、ソースおよび基板は負電極(4)にと接続され、ゲートは入力端(5)に接続されている。」(2頁右上欄16行ないし左下欄4行)と記載され、動作について、「開閉回路(8)が開いている開成の場合には、この論理回路のしきい値電圧は、P・MOS(1)の内部抵抗とN・MQS(2)の内部抵抗が等しくなる電位である。この電位をV1とする。これに対して、開閉回路(8)が閉じている閉成の場合には、この論理回路のしきい値電圧は・・・V2となる。」(2頁左下欄7行ないし15行)と記載されている。

一方、昭和57年特許出願公開第54427号公報(以下「周知例1」という。)には、入力端子にソース電極が接続されドレイン電極が電源または接地電位に接続された二つのMOSトランジスタと、セット端子並びにリセット端子でそれぞれ命令を受け、前記二つのMOSトランジスタを介して入力端子を電源に接続するか接地電位に接続するかを選択するフリップフロップ回路について記載されており、この二つのMOSトランジスタを介する点について第7~8図を参酌すると、前記フリップフロップ回路の出力信号はMOSトランジスタのゲート電極(制御電極)に制御信号として印加され、この制御信号により前記2つのMOSトランジスタのオン、オフが選択されると見ることができることは明らかである。また、昭和58年特許出願公開第15326号公報(以下「周知例2」という。)にも、素子に直列にスイッチング素子を入れてスイッチング制御する技術について記載されている。

(3)  対比

引用例記載の発明の、ゲートに入力信号が供給される点、Pチャンネル形電界効果トランジスタ、Nチャンネル形電界効果トランジスタ、相補型MOS論理回路は、それぞれ本願発明の「制御電極に入力信号が印加されること」「第1のトランジスタ」「第2のトランジスタ」「インバータ回路」に対応し、引用例の相補型MOS論理回路の動作は、第1図に関連付けて、一般によく知られているものとして説明されているように、ゲートに入力信号“H”が供給されるとNチャンネル形電界効果トランジスタが導通してCMOSインバータの出力端(6)は“L”レベルになり、入力信号“L”が供給されるとPチャンネル形電界効果トランジスタが導通して上記出力端(6)に“H”レベルが出力されるような動作をすると認められるので、引用例記載の発明は本願発明の「制御電極に入力信号が印加されることで、出力信号を高電位に決定する第1のトランジスタと、制御電極に前記入力信号が印加されることで、出力信号を低電位に決定する第2のトランジスタとを有するインバータ回路であって」に対応する構成を備えている。

また、引用例記載の発明の相補型MOS論理回路の入力と同一の信号をゲートへの制御入力としたNチャンネル形電界効果トランジスタおよびPチャンネル形電界効果トランジスタの少くとも一方のトランジスタ(第2図ではN・MOS7)は、本願発明の「第3のトランジスタ」に対応し、前記CMOS論理回路を構成するNチャンネル形電界効果トランジスタおよびPチャンネル形電界効果トランジスタのうち少なくとも一方のトランジスタ(第2図ではN・MOS・2)のみに対して並列に接続され、かつ前記少なくとも一方のトランジスタ(第2図ではN・MOS2)と同極性であるから、引用例記載の発明は本願発明の「前記第1及び第2のトランジスタのうち一方のトランジスタのみに対し並列に接続され、その制御電極に前記入力信号が印加される、前記一方のトランジスタと同極性の第3のトランジスタ」に対応する構成を備えている。

また、引用例記載の発明は、前記一方のトランジスタ(第2図ではN・MOS7)と前記CMOS論理回路を構成するNチャンネル形電界効果トランジスタおよびPチャンネル形電界効果トランジスタのうち少なくとも一方のトランジスタ(第2図ではN・MOS2)の各々のドレイン間、つまり一方電極間に接続された開閉回路を備え、この開閉回路の開成、閉成を行うことにより論理回路の入力しきい値電圧がV1、V2となり、この開成、閉成を行うことは本願発明の「オン・オフを選択すること」に対応するので、引用例記載の発明は本願発明の「前記一方のトランジスタ及び前記第3のトランジスタ各々の一方の間に接続されたものを備え、前記のもののオン・オフを選択することで、入力閾値電圧が変化するインバータ回路」に対応する構成を備えている。

(4)  一致点、相違点

本願発明と引用例記載の発明とは

「制御電極に入力信号が印加されることで、出力信号を高電位に決定する第1のトランジスタと、制御電極に前記入力信号が印加されることで、出力信号を低電位に決定する第2のトランジスタとを有するインバータ回路であって、

前記第1及び第2のトランジスタのうち一方のトランジスタのみに対し並列に接続され、その制御電極に前記入力信号が印加される、前記一方のトランジスタと同極性の第3のトランジスタと、

前記一方のトランジスタ及び前記第3のトランジスタ各々の一方の電極間に接続されたものを備え、オン・オフを選択することで、入力閾値電圧が変化するインバータ回路。」

である点で一致し、次の<1>の点で一応相違している。

<1> 各々の一方電極間に接続されるものと動作が、本願発明が「両電極が接続され、その制御電極に制御信号が印加される第4のトランジスタを備え、前記制御信号により前記第4のトランジスタのオン・オフを選択する」のに対し、引用例には、開閉回路を備え、前記開閉回路のオン・オフを選択する動作について詳細な記載がない点。

(5)  当審判断

両電極が接続され、その制御電極に制御信号が印加されるトランジスタであって、前記制御信号により前記トランジスタのオン・オフを選択する手段は周知(周知例1、2参照)であって、各種のオン・オフを選択する手段として普通に採用される手段であるから、引用例記載の発明における開閉回路に換えて該周知の手段を採用することは当業者が容易になし得ることである。しかも、その結果得られる閾値電圧を最適値に設定することができる等の効果も当然予想される範囲内のものにすぎない。

(6)  まとめ

以上のとおり、本願発明は、引用例記載の発明及び周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

4  審決の取消事由

審決の理由の要点(1)ないし(4)は認める。同(5)のうち、「両電極が接続され、その制御電極に制御信号が印加されるトランジスタであって、前記制御信号により前記トランジスタのオン・オフを選択する手段は周知」であることは認め、その余は争う。同(6)は争う。審決は、本願発明及び引用例記載の発明の技術内容を誤認し、本願発明の顕著な作用効果を看過した結果、相違点の判断を誤ったものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)  取消事由1(本願発明及び引用例記載の発明の技術内容の誤認による相違点の判断の誤り)

<1> 本願発明は、マイクロコンピュータの動作モードに応じた入力閾値電圧を制御信号Sで制御できるようにしたもので、トランジスタQ3、Q4により決定されるコンダクタンスβN2、βN3をあらかじめ適当な値に選択しておくことにより、入力端子1と接続するマイクロコンピュータその他の外部装置の出力レベルに適合するようにインバータ回路の入力閾値を制御信号Sで制御することができる。

すなわち、制御信号Sが“H”レベルで、トランジスタQ4がオン状態となった場合において、トランジスタQ4のコンダクタンスを考慮して入力端子1の入力閾値を考えると次のようになる。

βN2をトランジスタQ3で決まるコンダクタンス、βN3をトランジスタQ4で決まるコンダクタンスとすると、トランジスタQ3、Q4の合成コンダクタンスは

<省略>

となるので、入力端子1の閾値電圧Vinは次式で示される。

<省略>

ただし、

<省略>

ここで、VP=VNとすると、

<省略>

である。

そこで、本願明細書にいう従来の技術を示す(2)式のVin=Vcc/2と上記Vinとの大小関係を比べるため両者の差をとると、

<省略>

となる。なぜなら、通常βP=βNよりK2>1、また、通常VN=0.5(V)、Vcc=5(V)であるため、Vcc-2VN>0となるからである。

以上のとおり、トランジスタQ4のオン・オフにより、本願発明のインバータ回路における入力閾値電圧Vinを上記D2で表す分だけ、トランジスタQ3、Q4を用いて変化させることができる。

したがって、本願発明の技術内容には、「トランジスタQ4のコンダクタンスをインバータ回路の閾値電圧を最適に制御する構成としたこと」が含まれる。

被告は、トランジスタQ3とトランジスタQ4の直列回路の合成コンダクタンスは、βN3がβN2に比較して相対的にずっと大きくてよく、前記合成コンダクタンスはβN2に近似できると主張するが、本願明細書の特許請求の範囲には、「トランジスタQ4のコンダクタンスβN3がトランジスタQ3のコンダクタンスβN2に比較してずっと大きくてよく」とは記載されていないから、被告の上記主張は誤りである。

<2> これに対して、引用例の第2図には、NMOS7と開閉回路8を備えたものが開示されているが、どのようにして閾値電圧が制御できるのかについては全く開示されていない。

また、周知例1の第7図は、単に開閉器としてのみ動作するトランジスタ21、22を開示しているにすぎない。さらに、周知例2の第3図、第4図も、単に開閉器としてのみ動作するトランジスタ4を開示しているだけである。

<3> したがって、「引用例記載の発明における開閉回路に換えて該周知の手段を採用することは当業者が容易になし得ることである。」とする審決の判断は誤りである。

(2)  取消事由2(顕著な効果の看過による相違点の判断の誤り)

引用例記載の発明は、上記のようにNMOS7と開閉回路8とを備えたものであるが、その閾値電圧の制御がどのようにしてなされるのか全く不明である。これに対して、本願発明のインバータ回路は、トランジスタQ3、Q4のコンダクタンス及びトランジスタQ4に印加される制御信号Sにより、マイクロコンピュータ等の動作モードに応じた最適の閾値電圧に制御することが可能であるという顕著な効果を奏するものである。審決は上記顕著な効果を看過したものであって、誤りである。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1ないし3の事実は認める。同4は争う。

2  被告の主張

(1)  取消事由1について

<1> 原告は、「トランジスタQ4のコンダクタンスをインバータ回路の閾値電圧を最適に制御する構成としたこと」が木願発明の技術内容に含まれると主張する。

しかし、本願発明の要旨とする構成である「前記制御信号(S)により前記第4のトランジスタQ4のオン・オフを選択することで、入力閾値電圧が変化する」とは、トランジスタQ4のコンダクタンスが変数として関わって入力閾値電圧Vinが決定されることをいうのではない。

特に、本願明細書には、インバータ回路の接続構成と入力閾値電圧Vinについて、トランジスタQ4がオン状態の時には、「トランジスタQ3はトランジスタQ2に並列に接続され、しかもそのゲートはトランジスタQ2と同様入力端子1に接続されているため、トランジスタQ3が入力端子1の入力閾値電圧Vinに影響を与える。・・・入力閾値電圧Vinは次式で決定する。

<省略>

ただし、

<省略>」(6頁19行ないし7頁10行)

との記載があり、前記(3)式にトランジスタQ4のコンダクタンスが入っていないことからしても、入力閾値電圧Vinの決定には、トランジスタQ1、Q2、Q3のコンダクタンスが関わるが、トランジスタQ4のコンダクタンスは変数として関わらないことは明らかである。

すなわち、第4のトランジスタQ4の役割は、前記記載にあるようにトランジスタQ3をトランジスタQ2に並列に接続したり遮断したりすれば足り、トランジスタQ4のコンダクタンスβN3はトランジスタQ3のコンダクタンスβN2に比較して相対的にずっと大きくてよく、トランジスタQ3とトランジスタQ4の直列回路の部分の合成コンダクタンスは、上記(3)式に記載のようにトランジスタQ3で決まるコンダクタンスと見なせる(βN2に近似の)ものであれば足りるのである。

<2> 原告は、引用例の第2図には、NMOS7と開閉回路8を備えたものが開示されているが、どのようにして閾値電圧が制御できるかについては全く開示されていないと主張する。しかし、開閉回路8のコンダクタンスがどれほどの大きさで、どのようにして閾値電圧が制御できるかの定量的な表現や原理は、本願発明の要旨とする構成ではない事項である上、開閉回路8の開成と閉成により、閾値電圧が切換えられ可変にされることについて開示されていることは、審決の(2)の認定のとおりであって、原告の主張は理由がない。

また、原告は、周知例1、2は、単に開閉器としてのみ動作するトランジスタを開示しているにすぎないと主張しているが、上記周知例に制御信号によりトランジスタのオン・オフを選択する手段が記載されていることは審決の(2)の認定のとおりである。

<3> したがって、引用例記載の発明における開閉回路に換えて、制御信号によりトランジスタのオン・オフを選択する周知の手段を採用することは当業者が容易になし得ることであるとした審決の判断に誤りはない。

(2)  取消事由2について

原告は、本願発明のインバータ回路は、トランジスタQ3、Q4のコンダクタンス及びトランジスタQ4に印加される制御信号Sにより、マイクロコンピュータ等の動作モードに応じた最適の閾値電圧に制御することが可能であるという顕著な効果を奏すると主張する。

しかし、<1>マイクロコンピュータ等の動作モードに応じた入力閾値電圧を制御信号Sで制御できるようにしたこと、及び<2>トランジスタQ4のコンダクタンスをインバータ回路の閾値電圧を最適に制御する構成としたことは、いずれも本願発明の要旨とする構成ではないから、原告主張の効果は本願発明の要旨に基づくものではなく、本願発明の効果とはいえない。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録のとおりであるから、これを引用する。

理由

第1  請求の原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

第2  本願発明の概要

成立に争いのない甲第2号証(本願書並びに添付の明細書及び図面)及び甲第3号証(平成5年12月8日付手続補正書)によれば、本願明細書に記載された本願発明の概要は次のとおりと認められる。

1  「この発明は、インバータ回路に関し、特にマイクロコンピュータ等の半導体装置の入力段においてバッファ等として用いられるインバータ回路に関する。」(本願明細書2頁3行ないし6行)

「第2図は、入力バッファ等に用いられる従来のC-MOS構造のインバータ回路を示す回路図である。同図において、Vccは電源、Vssはグランド、Q1はPチャネルトランジスタ、Q2はNチャネルトランジスタ、1は入力端子、2は出力端子である。」(本願明細書2頁8行ないし13行)

「従来のインバータ回路の入力閾値電圧は、・・・一意に決定してしまう。このため、決定された入力閾値電圧に対する入力レベルでしか、入力端子1に電圧を印加することができない。

したがって、マイクロコンピュータ等の半導体装置の入力段としてこのインバータ回路を用いる場合、接続すべき外部装置の電圧レベルに制限が設けられる問題点があった。

この発明は、上記のような問題点を解消するためになされたもので、入力閾値電圧を必要に応じて、変化させることのできるインバータ回路を提供することを目的とする。」(本願明細書4頁2行ないし14行)

2  本願発明に係るインバータ回路は、本願発明の要旨とする構成を備えている。(手続補正書2頁12行ないし3頁6行)

3  「この発明における第4のトランジスタを制御信号によりオン・オフすることにより、第3のトランジスタと上記一方のトランジスタとの電気的接続・非接続が選択され、その結果、上記一方のトランジスタと第3のトランジスタによる合成コンダクタンスが変化して、入力の閾値電圧が変化する。」(手続補正書3頁11行ないし16行)

「第1図は、入力段バッファ等に用いられるこの発明の一実施例であるC-MOS構成のインバータ回路を示す回路図である。・・・Q3はトランジスタQ2と同じ極性のNチャンネルトランジスタであり、トランジスタQ3はトランジスタQ2に対し並列に接続され、ベース(判決注 ゲートと同義と認められる。)がトランジスタQ2同様入力端子1に接続されている。また、Q4はトランジスタQ2とQ3のドレイン問にドレイン、ソースの両電極が接続された、Nチャネルトランジスタであり、そのゲートには制御信号Sが印加されるように設けられている。

このような構成において、制御信号Sが“L”レベルの場合、トランジスタQ4はオフ状態となる。したがって、・・・このインバータ回路は実質上第2図のインバータ回路と等価になる。・・・

一方、制御信号Sが“H”レベルの場合、トランジスタQ4はオン状態となる。その結果、トランジスタQ3はトランジスタQ2に並列に接続され、しかもそのゲートはトランジスタQ2同様入力端子1に接続されているため、トランジスタQ3が入力端子1の入力閾値電圧Vinに影響を与える。

ここで、βN2をトランジスタQ3で決まるコンダクタンスとすると、閾値電圧Vinは次式で決定する。

<省略>

ただし、

<省略>

となる。ここでVP=VNとすると

<省略>

である。

(2)式のVinと(4)式のVinとの大小関係を比べるため両者の差をとると、

<省略>

(∵通常βP=βNより、

<省略>

通常VN=0.5(V)、Vcc=5(V)より、

Vcc-2VN>0

従って、トランジスタQ4のオン・オフにより、このインバータ回路における入力閾値電圧Vinを、(5)式のDで表す分だけ変化させることができる。すなわち、第1図のインバータ回路では、2種類の入力閾値電圧を選択できる。このため、トランジスタQ3により決定するコンダクタンスβN2を予め適当に選択しておくことにより、入力端子1と接続する外部装置の出力(電圧)レベルに適合するように2種類の入力閾値電圧を使い分けることができる。」(本願明細書5頁16行ないし8頁16行)

4  「この発明によれば、一方のトランジスタと第3のトランジスタとの一方電極間に設けた第4のトランジスタとを制御信号によりオン・オフすることで、並列接続された上記一方のトランジスタと第3のトランジスタとの合成コンダクタンスを変化させて入力閾値電圧を変化させるようにしたため、入力端子に接続させる外部装置の出力レベルに応じて制御信号により入力閾値電圧を最適値に設定することができる。このため、入力端子に接続できる外部装置の適用範囲が格段に広くなる効果がある。」(手続補正書4頁1行ないし11行)

第3  審決の取消事由について

1  取消事由1について

(1)  原告は、本願発明について、トランジスタQ3、Q4により決定されるコンダクタンスβN2、βN3をあらかじめ適当な値に選択しておくことにより、入力端子1と接続するマイクロコンピュータその他の外部装置の出力レベルに適合するようにインバータ回路の入力閾値を制御信号Sで制御することができるとして、本願発明の技術内容には、「トランジスタQ4のコンダクタンスをインバータ回路の閾値電圧を最適に制御する構成としたこと」が含まれると主張する。

しかしながら、本願特許請求の範囲第1項には「トランジスタQ4のコンダクタンスをインバータ回路の閾値電圧を最適に制御する構成とした」旨の記載はない。また、本願明細書の発明の詳細な説明及び願書添付の図面にも、トランジスタQ4のコンダクタンスβN3を選択して入力閾値電圧を調整することを開示ないし示唆する記載はないから、仮にこれを参酌したとしても、本願発明の技術内容が原告主張の如きものであると認めることはできない。かえって、上記第2の3及び4認定に係る本願明細書の記載によれば、本願発明は、トランジスタQ3により決定するコンダクタンスβN2を予め適当に選択しておくことにより、外部装置の出力レベルに合致する入力閾値電圧を得るものであって、第4のトランジスタは、単に第3のトランジスタをインバータ回路に接続するか切り離すかのスイッチング機能を果たすのみであると認められる。

したがって、原告の主張は失当である。

(2)また、原告は、引用例には、N・MOS(7)と開閉回路(8)を備えたものが開示されているが、どのようにして閾値電圧が制御できるのかについては全く開示されていないと主張する。

しかしながら、成立に争いのない甲第4号証(引用例)によれば、引用例には、「まず、開閉回路(8)が開いている開成の場合には、この論理回路のしきい値電圧は、P・MOS(1)の内部抵抗とN・MOS(2)の内部抵抗が等しくなる電位である。この電圧をV1とする。これに対して、開閉回路(8)が閉じている閉成の場合には、この論理回路のしきい値電圧は、N・MOS(2)とN・MOS(7)が並列接続された内部抵抗とP・MOS(1)の内部抵抗が等しくなったときの入力電位(電圧)V2となる。そして、入力電圧がこの入力電位V2であるときのP・MOS(1)の内部抵抗値は入力電圧が入力電位V2と並列に接続されたため、より小さい値となる必要があり、入力電位V2は入力電位V1より低い電圧となる。このようにして、開閉回路(8)の開成、閉成によりこの第2図に示す実施例の論理回路は2つのしきい値電圧V1、V2を切換えることができる。」(2頁左下欄7行ないし右下欄4行)との記載があることが認められる。そうすると、引用例にはN・MOS(7)を開閉回路(8)により、切り離すか又はN・MOS(2)に並列に接続するかによって、2種類の閾値電圧を得ることが明記されているというべきであるから、原告の上記主張は失当である。

(3)  そして、周知の技術手段である「両電極が接続され、その制御電極に制御信号が印加されるトランジスタであって、前記制御信号により前記トランジスタのオン・オフを選択する手段」を引用例記載の発明の開閉手段として採用することは当業者にとって容易になし得たことというべきであるから、この点に関する審決の認定判断に誤りはない。

2  取消事由2について

原告は、本願発明のインバータ回路が、トランジスタQ3、Q4のコンダクタンス及びトランジスタQ4に印加される制御信号Sにより、マイクロコンピュータ等の動作モードに応じた最適の閾値電圧に制御することが可能であるという顕著な効果を奏すると主張する。

しかしながら、トランジスタQ4のコンダクタンスにより閾値電圧を調整することを本願発明の技術内容と認めることができないことは前記1において説示のとおりである。

そして、引用例記載の発明の開閉回路として制御信号Sの印加により動作するトランジスタQ4を用いれば、トランジスタQ3のコンダクタンスとトランジスタQ4に印加される制御信号Sにより閾値電圧を最適値に設定可能となることは当然であるから、原告の主張は失当である。

3  以上のとおり、本願発明が、引用例記載の発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとした審決の認定判断に誤りはなく、審決には原告主張の違法はない。

第4  よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日・平成10年3月24日)

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 持本健司 裁判官 山田知司)

別紙図面1

<省略>

別紙図面2

<省略>

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